KINDAI UNIVERSITY

THE POWER OF SCIENCE

THE POWER OF SCIENCE

⼈間の⾏動を分析し、 快適な都市・空間づくりに役⽴てる

山田 崇史 講師/建築・都市・空間デザイン研究室

近大では2018年に海遊館と包括連携協定を結び、
さまざまな分野で社会課題解決に
役立つ研究に取り組んでいます。
その第1弾が先生の研究室による
来場者の行動分析だったんですよね?

「居心地のよい空間づくりをめざす」ことを全体テーマに、ちょうど訪日外国人が増加している時期だったので、日本人と外国人では観覧行動に違いがあるのかを調査・分析しました。
実際、どんな調査をしていたかというと、館内を入口から出口まで100mごとの区間で分け、研究室の学生10人とご協力いただいた海遊館のスタッフのみなさん78人を各区間に配置し、開館から閉館までの時間、どの時間帯にどのくらいの人数がいるかをカウントしました。この調査によって、どの展示水槽の観覧者が多いか、いつ来館者が多いのかを数値として定量的に把握しました。
また、日本人と外国人の観覧行動については、館内でアンケート調査を実施ました。混雑度や展示水槽の数、展示に対する満足度、来館しようと思ったきっかけ、来館するにあたって海遊館のウェブサイトまたは他のウェブサイトを見てきたかなどを聞き、日本人と外国人、外国人の中でも英語圏、中国語・韓国語圏では違いがあるのかを検証しました。


水槽ごとに、どの時間帯に何人観覧者が集まっていたかを示すグラフ

日本人と外国人で何か違いはありましたか?

展示水槽の数について「多い」「少ない」「気にならない」の3つから回答いただいたところ、日本人は「気にならない」との回答が多かったですが、日本人以外は「多い」と回答される傾向がありました。また、同様に混み具合を聞くと、日本人は「混雑している」「気にならない」という回答でしたが、外国人は「混んでいない」という回答が多かったです。中国の都市部など、人口密度が高いエリアから訪れている場合は、日本人が混雑していると思っても、そこまでは思わない、というケースがあるかもしれないと思います。
海遊館に来るにあたって何を参考にしたかと聞くと、日本人は海遊館のウェブサイトを見て訪れたという人が多い一方で、英語圏や中国語圏の人は、海遊館以外のウェブサイトや家族、友人の口コミを参考にしてきた人が多い結果となりました。


展示水槽の数と混み具合の調査結果

逆に共通していた部分はありましたか?

共通していたのは、興味を持つ展示で、ジンベエザメがいる「太平洋水槽」や、ペンギン等がいる「南極大陸」という回答が多かったです。ただ、外国人のほうが日本近海にいる生き物の水槽に興味を持つ傾向がありました。文化の違いが興味の対象になるんでしょうね。
調査前は、「日本人と外国人で海遊館に対する満足度に違いがあるのでは」と想定していましたが、総合的な満足度ということに関しては「どちらも満足感が得られた」という回答が得られたのも共通した部分です。


ディスプレイに表示されているのは、海遊館調査中の様子

これらの調査結果をまとめた結果を
海遊館に報告されたんですよね?

結果報告とともに、他の水族館の事例なども調査して、改善点を提案しました。海遊館でもどの水槽に観覧者が集まるのか、どの時間帯に人が多いのかは感覚的に把握されていましたが、調査することで観覧状況が数値として把握でき、同じ時間帯でも水槽によって観覧者の集まり方が異なることなどが分かって良かったとの声をいただきました。また、日本人と外国人を比較したアンケート結果は、今後のウェブサイト作成や施設運営に役立てられそうです。
海遊館は、入口から一度8階まで上がり、回廊型の通路を下りながら最後まで観賞する一本動線の水族館です。この構造を知らない外国人だと「長い」と感じる人がいるようで、途中で「出口はどこ?」と聞く人もいました。構造上、展示方法を変えるにも限りがあるので、こうした場合の対応方法は今後の課題だと考えています。

津波が起きた際の避難⾏動の調査もされていますね。

私は博士課程在学中、東日本大震災の津波避難行動について研究しており、今も継続して津波避難行動を研究しています。きっかけは、何か社会の役に立つ研究をしたいという思いからでしたが、海岸沿いにいた人たちはどのように避難したのかを分析するうちに、こうした学術的に調査・分析することで空間や建物に人がどのように関わっているのかを解き明かし、人間にとって快適な空間づくりに活用できないか、と考えるようになりました。学部生時代はただ、かっこいい建築物をつくりたいと思っていた私の大きな転換点になったと思います。

研究室では、和歌山市内にある海水浴場を訪れた方に、もし津波が起きたらどういう避難行動をするのかアンケート調査を行いました。避難施設が記載されたマップを見せて、「どの避難施設に行きますか」と聞くと、近くの避難施設に行く人もいれば、なるべく内陸に避難するという人もいて興味深いと思いました。また、津波の被害にあった経験がある人や、日頃から防災意識の高い人は、津波が遡上する川の近くや海抜の低いところは避けると話していました。
これらの調査結果を元に、避難施設に来る人数の予測などもできるので、自治体に調査結果を報告し、今後の避難計画に活用していただいています。


和歌山市内の海水浴場で津波避難行動について調査する様子と調査結果

人の流れから建築計画や都市計画を
考える面白さはどこにあると思いますか。

人の流れは、単なる物体の移動でなく、意志や目的を持つ人の行動そのものです。人の意志や目的、行動はそれぞれ異なりますが、全く異なるかというとそうではなく、ある程度共通した考えや行動があることが調査すると分かってきます。研究結果を踏まえた上で、多くの人が住みやすい建築や都市づくりに生かせたらとても面白いと思います。

例えば、駅で利用行動を調査すると、人がスムーズに流れている場所がある一方で、一部の場所に人が集まっていることが分かります。空間が人を誘導しているような状態で、デザインの分野では、「アフォーダンス」とも言います。
では、その空間の形状が変わると、人の動きも変わるでしょうか?空間と人の動きの傾向が分かれば、人の動きをシミュレーションでき、快適な空間づくりに役立てることができます。そこで実際にJR天王寺駅で人の流れが通勤時間帯や昼の時間帯でどのようになっているのかを調査し、集めたデータを元に改札の運用方法を変えたら人の流れにどう影響するかをシミュレーションしました。JR西日本には結果を報告しているので、今後、駅の改善に役立てばと思います。

今、新型コロナウイルス感染症により、私たちは新しい行動様式を求められています。これから建築や都市といった人が存在する空間について考える上で、感染症対策は避けて通れません。これからは新型コロナウイルスをはじめとする感染症に対応する建築や都市づくりのための研究に取り組みたいと考えています。


JR天王寺駅の人の流れをシミュレーションしたもの

TOPICS

産官学連携で地域の活性化に貢献

近畿大学は、生物理工学部が立地する紀の川市と包括連携協定を締結しています。紀の川市や地元企業と連携してさまざまな取り組みを展開しており、地域の活性化に貢献しています。
下の写真は、和歌山市と紀の川市、和歌山電鐵株式会社が実施した、わかやま電鉄貴志川線の乗降調査に、本学科の学生が調査員として参加した時の写真です。調査結果を分析して、今後の地域鉄道に関する施策に役立てます。このように地域における課題と向き合い、課題解決に寄与するという「生きた」学びを通じた研究・教育を行っています。


わかやま電鉄貴志川線の乗降調査