KINDAI UNIVERSITY

THE POWER OF SCIENCE

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機能性セラミックスを活用した、ヘルスケアモニタを研究開発

西川 博昭 教授/超五感生体センサ研究室

機能性セラミックスとは何ですか?

電気的・磁気的・光学的・化学的・熱的などの特性を持つセラミックス材料のことで、半導体や金属、プラスチックなどの材料に比べて、さまざまな機能性を持つことから注目されています。
私の研究室では、セラミックスの中でも金属と酸素が反応してできた酸化物セラミックスを扱っています。その中に「圧電体」という電圧を加えると結晶がゆがみ、逆に結晶にゆがみを加えると電圧が発生する性質を持つものがあります。
圧電体は外から超音波が当たると、その超音波の空気の振動で結晶がわずかにゆがむため電圧が発生して超音波を電気信号に変えることができます。逆に、電圧が加わると結晶がゆがみ、高周波の電圧を加えると周りの空気を揺らして超音波を発します。この性質を利用したものが超音波診断装置で、生体内から跳ね返ってくる超音波信号をもとに画像化します。現在、体内を診断する必要がある時、まず超音波プローブというエコー機器が使われると思います。私自身、尿路結石ができた時、超音波プローブが診断に使われました。

先生が研究されているヘルスケアモニタに使われているのがその圧電体ですね。

例えば、血管内に血栓ができやすくて危険だけれど、ずっと入院しているのは嫌だから家で過ごしたいという希望を持つ方は多いと思います。ただ、血栓ができて血管が詰まると命にかかわりますから、血管内の様子を常時見ることができれば便利ですよね。とはいえ、医療の専門家ではない人が超音波プローブを使うのは無理があります。そこで、圧電体を曲げ伸ばしできるシート状にして、24時間身に付けられるデバイスを作り、いつでもどこでも血圧や血流などを計測できないか、と考えました。異常な数値を感知したら、その情報が病院に送られ、「今危ないですからすぐ病院を受診してください」と連絡が来る。そういうウェアラブルな超音波エコーシートを作ろうと研究を進めています。

セラミックスをシート状にするのが難しそうです。

圧電体やセラミックスと聞くと、硬い、もろい、壊れやすいといったイメージを抱くのではないでしょうか。「そんなものを薄くして曲げ伸ばしすることができるのか?」と疑問を持つと思います。しかし、非常に薄い膜にすると曲げ伸ばし可能な柔らかいものになることが分かりました。これなら、皮膚に密着させることができますね。
私たちの研究室では、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)という圧電体を薄膜化し、プラスチックの基板に接着させ、ウェアラブル超音波デバイスの基礎となるものを作製しました。基板は、和歌山市に本社がある大洋テクノレックス株式会社さん製の銅配線が施されたFPC基板を使用しました。
こちらの会社は、精力的に新規開発に取り組まれている高い技術力を持つ企業で、産学連携でこの基板を作っていただきました。FPCなどプラスチックを使用する基板に圧電体などのセラミックスを融合させるには従来の技術では剥離やひび割れが生じやすかったのですが、当研究室では圧電体にプラチナを付けて接着させることで剥離やひび割れが起こりにくくする技術を開発し、この問題を解決しました。

この薄い膜のセラミックスはどうやって作るのですか?

パルスレーザ堆積(PLD)法という、レーザで発生させた原子を基板の上に降り積もらせる方法で作っています。真空装置の中に置いたセラミックスの錠剤にエキシマレーザという非常に高エネルギーのレーザを当てると、錠剤を構成する原子をバラバラに分解させることができます。そのバラバラになった原子を基板に積層させることで曲げ伸ばし可能な非常に薄いフレキシブルなセラミックスの膜が完成します。現在は、この方法で作製した薄膜の電気特性や超音波特性などについて研究しています。

先生がセラミックスの研究を始めたきっかけを教えてください。

中学・高校時代は電子工作が大好きで、はんだ付けをして回路を自作したり、コンピュータでプログラムを作成したり、コンピュータで制御するロボットを作ったりしていて、大学は電子工学科に進みました。将来は、新しいコンピュータの開発をしたいと思っていたのですが、勉強すればするほどプロセッサの材料そのものまで研究しないと電子工学の面白さが分からないのでは?と思い始めて、大学院で方向転換して理学部化学科に進み、材料を専門に学ぶようになったのです。大学院では、セラミックスの膜を作る研究室に所属し、金属の酸化物セラミックスの膜を作る研究をしました。そこでこの研究の面白さを知って、今に至ります。
医療を専門に勉強してきたわけではない私が、セラミックスを使った医療機器の開発に関する研究を行うようになったのは、これまで常識では考えられなかったような新しい診断装置がセラミックスを使って開発できたら人類にとって良いものになるのではと考えたからです。医療はまず、診断するところから始まりますよね。体温や血圧、超音波で体内を見るなど、さまざまな作業があります。計測するには、熱い・冷たい、血圧が高い・低いだけではなく、数値で出す必要がありますから正確に計測できるセンサーが不可欠です。そのセンサーにさまざまな機能性を持つセラミックスを使うことが有効なのではと、この分野の研究に取り組むようになりました。

先生が今後挑戦したいことは?

ヘルスケアモニタに応用可能な「曲げ伸ばしできる酸化物セラミックスシート」を実現できたので、次にこのシートを用いて超音波を受け取る、出す実験に研究を進めて、学生たちと一緒に頑張って取り組んでいるところです。Apple Watchのようなスマートデバイスで心拍数などを計測できるようになっていますが、24時間身につけていても存在を意識せずにすむものを作りたいです。セラミックスは、水に濡れても大丈夫なので入浴中も使えますし、汗の成分を化学的に分析することにも使えると思います。
また、これまで酸素を含んだ酸化物セラミックスを専門にしてきたのですが、窒素を含んだセラミックスも青色発光ダイオードなど優れた機能性を持つ材料がたくさんあります。そこで、窒化物セラミックスを専門とする先生に窒化物セラミックスの薄膜化技術について教えを請うているところです。

TOPICS

薄膜化したハイドロキシアパタイトを医療材料に

歯磨き粉によく含まれている「ハイドロキシアパタイト」は、カルシウムとリン、酸素などで構成された材料で、歯や骨の主成分でもあります。このハイドロキシアパタイトはセラミックスの一種で、PZTと同じようにPLD法で薄膜化できます。環境や人体に無害な材料なので、歯が抜けた後の人工インプラントや心臓の血管を広げるステント、人工骨など生体に埋め込むようなものに薄膜でコーティングできれば、より生体になじませやすいのではと考え、研究を進めています。