KINDAI UNIVERSITY

THE POWER OF SCIENCE

THE POWER OF SCIENCE

生き物の身体の動きや構造にヒントを得たロボットを研究

池田 昌弘 助教/身体・知能ロボティクス研究室

先生が開発されたこの四足歩行のロボット、なんだか不安定に見えます。

まさに不安定です。調整はかなり大変なのですが、うまく調整できると硬いボディのロボットよりもよく歩きますよ。よくある四足歩行や二足歩行のロボットは硬いボディのものが多いですよね。しかし、これは柔らかい胴体をしているのが特徴です。初めはもっと硬い関節が多く複雑な形をしていましたが、どんどん削ぎ落として、最終的に胴体は板状のバネになりました。
人間や動物の体は柔らかくて硬くないですよね。背筋を張って歩こうと思うと、ぎこちない動きになりますよね。胴体を柔らかく使った方がうまく歩けるように、ロボットも柔らかい方がうまく歩けるのではないかと思ったのです。胴体をうまく調整すると、割とちゃかちゃかと軽快な動きをするようになります。
柔らかいというのは、いわばバネです。このロボットの胴体には板バネを使っていますが、バネはエネルギーをためられるのが利点です。エネルギーを使いたい時に、ためていたエネルギーをパッと出すことができるため、エネルギー効率が良くなります。結果として、速く走れたり、高く飛んだりといったダイナミックな動きができると考えています。

生き物の動きや構造をまねて作られているのですね。

生物の体をまねている、というよりも生物の身体を理解するというのが正しいかもしれません。例えば、チーターは非常に足の速い動物です。ロボットよりもものすごく速いですが、ロボットの性能が発達してチーターとほぼ同じ体のロボットができたとしても、チーターと同じかそれより少し劣るスピードでしか走れないと思います。チーター以上に速く走れるものはできません。それだとあまり面白くないので、チーターがなぜ速く走れるのかを理解してチューニングすれば、チーターよりも速いロボットになる可能性があると考えています。それが「バイオインスパイアードロボティクス(生物規範型ロボット)」という考え方です。
以前、ダチョウやサギの首を模したロボットを開発しましたが、鳥の首は非常に不思議な構造をしています。鳥は、下を向いてついばむ動きをしますが、よくよく考えると、頭には脳みそと目玉、口と大事な器官が集まっているのに、それを遠慮なしにガンガンとたたきつける動作をしています。なかなかリスキーな動きですよね。でも鳥がすごく簡単にやってのけるのは、鳥の骨格や筋肉の付き方がそのようになっているからです。このロボットを作製した時は、解剖学の先生とコラボレーションして、実際にダチョウの首を解剖して筋肉や腱の付き方を調べて設計に活かしました。

ロボットに人工筋肉などを取り入れることも検討されていますか?

人工筋肉の四足歩行ロボットを研究していたこともありました。ダチョウの首ロボットは人工筋肉と非常に相性が良いと思います。ただ、現在、試作しているものはまだそこまで至っていません。
ロボットは、キャンディーが山盛り入った箱の中に手を入れて、適当につかんで持ち上げるような動きがとても苦手です。でも、人間は簡単にできますよね。人工筋肉を使ったロボットができると、そういった動きも簡単にできるようになるかもしれませんね。
工場で使われているような高度なロボットでも、たくさんのネジの中からネジを一つつかむという動作をするのはとても難しい。ロボットはネジ山の中の一番簡単につかむことができるネジしかつかめないです。人間は何も考えずに、ネジ山の中の適当なネジをつかむでしょう?そういった適当な動きを取り入れることができればロボットがもっと普及すると思います。

先生がロボットを研究しようと思ったきっかけは?

幼い頃からロボットアニメが大好きで、幼稚園の頃に周りがみんな「ウルトラマンになりたい」「仮面ライダーになる」と言っていたように、「僕はロボットを作るんだ」と言っていました。そのまま大きくなったという感じですね。
歩行するロボットを研究するようになったのは、私自身、歩くことが好きで、山歩きの最中に人間は何も考えずに段差をとんとんと歩けるのがすごいと思ったところからです。ロボットは、人間の脳みそよりも計算能力が高いパソコンを搭載しているのに、段差を乗り越えるためのプログラムをわざわざ組まなければ人間が自然に行っているような動作ができない。ならば、ロボットができるようにするには、どうしたらいいかと考えるようになりました。

最近、街中でロボットを見る機会が増えましたね。

ファミリーレストランに行くと、猫型の配膳ロボットが動いているのが珍しくなくなりました。ロボット型掃除機を使っているご家庭も多いですよね。生物を模倣したバイオインスパイアードロボットが発達すれば、もっと身近な存在となるのではないでしょうか。
四足歩行のロボットを見ていると、数百万円レベルのお金と数年かけたものがありますが、私が試作したロボットは全部合わせても10数万円ほどで、製作期間は3か月です。適当に作っても動くロボットです。生物規範型ロボットの第一人者である東京工業大学の鈴森康一先生は、ロボティクスが目指すものとして「いいかげん」を許容 ・ 活用して「好いかげん」を実現するとおっしゃっていて、それがまさに私が研究しているような柔らかいロボットの良いところだと思っています。

先生がこれから挑戦したいことは?

人間環境デザイン工学科は、人間を中心として、住環境や材料、安全構造、音響などを考える学科で、その中にロボットもあります。私は、この学科に来て、実際に人間と環境を共にするようなロボットについてどうやって考案すればいいのかと考えるようになりました。
先ほど配膳ロボットの話をしましたが、段差などがあると難しくて、ロボットが動くのに適した環境が整っているとは言えません。ロボット型掃除機でも掃除させるためには、まず掃除させるために片付ける必要があります。ロボットに優しい環境は、バリアフリーでもあるので、人間にもロボットにも優しい環境を考えたいと思います。
この学科には住環境やユニバーサルデザインの専門家が揃っていますから、アイデアが広がっていく可能性を非常に感じています。生物理工学部自体、多様な分野の専門家が集まっている学部で、生物系も理工系もあるからこそ広がりがあって面白い学部だということを受験生や学生の皆さんに知ってもらえるとうれしいですね。

TOPICS

柔らかな関節を持つ赤ちゃんロボットを製作

この赤ちゃんロボット、今ここにあるのは残骸なのですが、蹴る動作ができるロボットです。赤ちゃんは、お腹の中で蹴る動作を学習して生まれてきますよね。胎内で体の使い方を身につけていないと、呼吸もできないし、内臓も動かないし、おっぱいも吸えません。このロボットには、これから赤ちゃんと同じように学習する機構をつけ、だんだん上手に蹴れるようになっていく仕組みを作っていくつもりです。
ボディの素材はシリコンゴムです。単に柔らかくすると形が保てないため、多数の孔を開けることで赤ちゃんのような柔らかな関節を実現できました。これは革新的な技術ですね。中には3Dプリンタで作成したリアルな骨が入っています。