初ナビ 初めての方はこちら

世界初!受精卵のエピゲノム編集に成功 細胞分化制御やDNA 組換えを伴わない遺伝子治療などへの応用に期待

(2017年 5月24日)

近畿大学生物理工学部(和歌山県紀の川市)遺伝子工学科准教授の山縣一夫、
北里大学メディカルセンター(埼玉県北本市)研究部門上級研究員の山﨑大賀、
東京工業大学(東京都目黒区)科学技術創成研究院教授の木村宏らの研究グループは、
近年話題のゲノム編集と呼ばれる技術に着目し、
動物の発生に影響を与える「DNAメチル化」を、細菌由来の酵素遺伝子を利用して
マウス受精卵に“書き込む”ことに世界で初めて成功しました。
本研究成果によって、効率的な生殖細胞作製や遺伝子治療に新たな道が開かれることが期待されます。
本件に関する論文が、平成 29 年(2017 年)5 月 19 日(金)午前 3 時(日本時間)に
米国のオンライン学術誌「PLOS ONE」で公開されました。

【本件のポイント】
●ゲノム編集と細菌由来の酵素遺伝子を利用してDNAメチル化情報を操作する「エピゲノム編集技術」を開発
●「エピゲノム編集技術」によりマウス受精卵にDNAメチル化を“書き込む”ことに成功
●将来的に細胞分化の制御や配列を書き換えない遺伝子治療などに応用できる可能性がある

【本件の概要】
私たちの身体を構成する細胞はすべて同じ遺伝情報(ゲノム)を核内に持っています。
同じ遺伝情報からさまざまな種類の組織や細胞が作られるのは、それぞれの細胞にとって
必要な遺伝子だけが使われ、不必要な遺伝子は使われないからです。
遺伝情報(ゲノム)を設計図とすれば、部品の採用不採用を記した付箋をエピゲノムといい、
設計図をもとに付箋の情報を集約して作った完成品が細胞となります。
エピゲノムは、後天的遺伝情報と呼ばれ、DNA に生じる目印のようなものです。
エピゲノムの一つが DNA メチル化であり、
正常な個体が発生するために重要な役割を果たすことが知られています。
本研究では、最近話題のゲノム編集技術と細菌由来の酵素遺伝子を利用して、
マウス受精卵に DNA メチル化情報を書き込むことに世界で初めて成功し、
受精卵にDNAメチル化を効率的に導入することが可能であることを示しました。
本研究で開発された技術は、これまで不明だった
染色体の機能未知領域(ぺリセントロメア)における
DNAメチル化の果たす役割を解析する一助となる技術として期待されます。

【掲載誌】
雑誌名:米国のオンライン学術誌「PLOS ONE」(インパクトファクター:3.057 2015)
論文名:Targeted DNA Methylation in Pericentromeres with Genome Editing-Based
Artificial DNA Methyltransferase.
(ゲノム編集技術を応用したペリセントロメアへの人為的・配列特異的 DNA メチル化誘導)
著 者:Taiga Yamazaki, Yu Hatano, Tetsuya Handa, Sakiko Kato, Kensuke Hoida,
Rui Yamamura, Takashi Fukuyama, Takayuki Uematsu, Noritada Kobayashi,
Hiroshi Kimura, Kazuo Yamagata

【本件の詳細】
研究グループはゲノム編集と呼ばれる技術に着目し、ゲノム編集で用いられている
TALEN および CRISPR/Cas9 など任意の DNA 配列に対して結合することが可能な
DNA 結合モジュールと、スピロプラズマと呼ばれる細菌が保有する DNAメチル化酵素 SssI との
融合遺伝子を作製し、マウスのペリセントロメアに存在する DNA 配列である
メジャーサテライトに対して DNA メチル化導入が可能か検討し(図 1)、
マウス受精卵(図 2)およびマウス ES 細胞(図3)において
効率的なメチル化導入が可能であることを示しました。
この DNA メチル化の亢進はバイサルファイトシーケンスによる 1 塩基レベルの解像度だけでなく、
DNA メチル化検出用の蛍光プローブを使った顕微鏡レベルでも検出可能なものであり、
大規模に DNA メチル化が導入される様子を
ライブセルイメージングによって追跡することが可能でした。
さらに、ペリセントロメアに DNA メチル化を導入したマウス受精卵の細胞分裂期における
染色体分配異常を調べたところ、DNA メチル化導入した受精卵と
DNA メチル化導入していない受精卵において大きな違いは認められず、
着床前初期胚発生の細胞分裂機能にペリセントロメアの DNA メチル化は
重要ではないことが示されました。
従来のエピゲノム編集で使用されてきた哺乳動物由来の DNA メチル化酵素は、
協調して働く分子を必要としますが、本研究で作製された細菌由来の人工酵素は
それ単独で機能するため、他の生体作用の影響を受けずに
安定した DNA メチル化導入効果が期待されます。
なお、本研究は文部科学省科学研究費補助金、新学術領域研究「動的クロマチン構造と機能」
(代表:胡桃坂仁志 早稲田大学教授)の支援のもとで行いました。

図1
図2 図3

【研究の背景】
近年、ゲノム編集技術は大きな広がりを見せています。
遺伝子組換え動物を作製する際には、受精卵の中でゲノム編集する方法が一般的です。
海外では、ヒト受精卵でゲノム編集を行ったという報告がなされており、
新たな遺伝子治療法としての有効性に注目が集まるなかで、
その倫理基準などについては多くの議論を呼んでいます。
一方、ゲノム編集技術を応用して特定遺伝子領域の DNA メチル化状態を操作する
「エピゲノム編集」が、基礎研究レベルで徐々に報告されはじめています。
これは、例えば遺伝情報の読み出しに必要な目印を変える技術であり、
遺伝子配列そのものを改変するわけではないので、倫理的問題を解決する可能性があります。
これまでは培養細胞などで実験されていましたが、
本研究では受精卵を用いたエピゲノム編集について検討を行いました。

【今後の展開】
マウス生殖細胞のセントロメア(細胞分裂に必須な染色体配列)には、
大規模な DNA 脱メチル化が生じていることが報告されています。
本研究成果によって、マウス受精卵に DNAメチル化を効率的に導入することが可能となるため、
生殖細胞の発生・分化に関する研究に応用できるものと考えます。
また、複数のがん細胞においても生殖細胞と同様に
セントロメアの DNA 脱メチル化が大規模に生じていることが報告されており、
がんに特徴的なゲノム不安定性との相関性が指摘されています。
本研究による DNA メチル化操作によって、がん細胞におけるゲノム不安定性と
DNA 低メチル化状態との因果関係を研究することが可能となり、
新たながん研究の解析ツールとなることが期待されます。
また、本研究で使用した DNA 結合モジュールは任意のゲノム領域に設計できることから、
ペリセントロメア以外のさまざまなゲノム部位に対して
DNA メチル化の導入を行うことが可能となります。
遺伝子破壊を伴わずに遺伝子の発現抑制を行うことが可能であることから、
がん遺伝子をはじめとする疾患原因遺伝子の発現抑制など、
ゲノムを書き換えない遺伝子治療への将来的な応用展開が期待されます。

【 関連リンク先 】

遺伝子工学科


( 教員情報詳細 )

山縣 一夫 准教授

  1. ホーム
  2. 新着情報一覧
  3. 新着情報

ページ上部へ